(※本記事は2025年12月11日作成)
はじめに:市場の透明化と規制の布石
不動産登記における国籍記載の義務化は、単なる行政手続きの変更ではなく、日本の不動産市場の透明性を劇的に高めることを目的とした重要な法改正です。
政府は、特に都市部の不動産価格高騰や短期的な投機取引に対し、外国人投資家による取得の実態を正確に把握するための強固なデータ基盤を整備しようとしています。
この義務化は、将来的にデータに基づいた、より的を絞った新たな規制(例えば、投機抑制税や取得税の検討)を導入するための不可欠な第一歩と位置づけられます。
向井 啓和 不動産投資アドバイザー
1999年から不動産投資をメインに、アメリカ不動産投資、アメリカドル投資、日本株投資を行ってきた投資経験を元に、長期投資で成功するためのヒントを共有します。
この記事の概要
不動産登記の「国籍記載義務化」は、日本の不動産市場の透明化を進め、外国人投資の実態把握を可能にする重要な制度改革です。取得データは投機抑制や空室税など次の政策立案に直結し、短期転売目的の投資を抑える効果が期待されます。これにより市場は長期保有型の投資家中心へ移行し、専門家支援の需要も増えるなど、健全で持続可能な市場形成が進みます。
目次
- はじめに:市場の透明化と規制の布石
- 1.市場のデータ化と政策立案の高度化
- 2.空室問題への対応と「空室税」の視点
- 3.海外投資家の行動変容と専門家需要の増加
- 4.結論:健全な市場「質」が評価される時代へ
1.市場のデータ化と政策立案の高度化

国籍情報が登記簿に明記されることで、政府や自治体はこれまで把握が難しかった海外投資家の動向を正確に分析できるようになります。
実態把握の明確化
どの国籍の投資家が、どの地域の、どのような種類の不動産に、どれだけの規模で投資しているかが定量的に把握可能になります。
これにより、特定の地域への資金集中による局所的な価格高騰などの実態が明確になります。
政策の高度化
正確なデータに基づき、政府は地域別や投資目的別など、より細分化された政策オプションを検討できるようになります。
例えば、過熱している市場に対しては税制面での対策を講じ、一方で必要な海外からの投資は阻害しないよう、緻密なバランス調整が可能となります。
2. 空室問題への対応と「空室税」の視点

国籍記載義務化は、社会的な課題となっている都市部の空室問題への対応とも深く関連しています。
空室把握の進展
登記簿に所有者の国籍や国内連絡先が明記されることで、海外在住オーナーが所有する物件の実質的な利用状況(空室期間の長さ)を行政が間接的に把握しやすくなります。
「空室税」を巡る議論
近年、与野党を問わず、使われていない住宅資源の有効活用と住宅供給の確保を目的として、空き家や長期的な空室に対する新たな課税(空室税など)の検討が政策課題となっています。
個人名義での情報開示を避けるため、海外の投資家が日本国内に設立した法人を通じて不動産を取得するケースが増加する可能性があります。
これに対し、政府は法人についても実質的支配者(代表者・取締役等)の国籍情報開示を求める次の規制強化に進む可能性も考えられます。
規制との関連
この義務化によって得られたデータは、「投機目的で取得された物件の空室」と「その他の理由による空室」を区別し、税制の対象をより明確に定めるための強力な根拠となる可能性があります。
国民民主党などが指摘するように、空室税の導入は、市場を混乱させる短期的な不動産転売目的の投資家(転売ヤー)をあぶり出すための一つの有効な方策となる可能性を秘めています。
この動きは、市場に対し「取得した不動産は適切に利用・供給すべきである」という強いメッセージを送るものとなります。
3. 海外投資家の行動変容と専門家需要の増加

規制の厳格化は、市場に参加する投資家の行動様式と市場の質そのものを変化させます。
長期保有志向への転換
短期的な利益を追求する投機目的の投資家は、情報開示の強化や将来的な規制リスクを嫌い、市場から遠ざかる可能性があります。
その結果、賃貸収入や事業利用など、長期的な安定収益を目的とする質の高い海外投資家が市場の主体となる傾向が強まります。
法人取得の動向
個人名義での情報開示を避けるため、国内に設立した法人を通じて不動産を取得するケースが増える可能性があります。
ただし、政府は今後、法人についても実質的支配者の国籍情報開示を求める次の規制強化を検討する可能性があります。
法務・税務需要の増加
規制強化と情報開示の厳格化に伴い、海外在住のオーナーや外国人投資家は、日本の登記法・税法に合わせたコンプライアンス(法令遵守)を確実に行うため、司法書士や税理士などの専門家による国際的な税務アドバイスの需要が大きく高まります。
結論:健全な市場「質」が評価される時代へ

国籍記載の義務化は、日本の不動産市場を「誰が、どのような目的で」動かしているのかを明確にするための不可欠な一歩です。
市場は一時的に資金流入が鈍化する可能性も否定できませんが、長期的には投機マネーに依存せず、国内居住者のニーズに応える、健全で持続可能な市場へと移行することが期待されます。
不動産オーナーや関連事業者は、この市場の透明化と規制強化の流れを正確に捉え、コンプライアンス体制を構築することが、今後の事業安定化に必須となります。

